私たちはよく「戸籍」と一口で言います。このホームページでも「戸籍集め」や「戸籍収集」などと言っています。そして、二言目には「戸籍って、いろいろ種類があってなにがなだか分かりにくいんだよね。」とも言ってしまいます。
そこで、その位置づけによる分類と様式による分類という観点から戸籍の種類について、次に戸籍についての証明書である謄本・抄本等について簡単に説明します。
○戸籍 (現在戸籍・現戸籍)
現在の状況が記載されている、現在も生きている戸籍のことで、戸籍簿(※)に綴られているものです。「現在戸籍」や「現戸籍(げんこせき)」とも言います。
戸籍には、少なくとも一人は在籍しています。
○除籍
戸籍に記載されていた者すべてが死亡や婚姻、転籍(※1)などによって戸籍から除かれ、除籍簿(※2)に綴られているものです。
※1 厳密に言えば、同一市区町村内での転籍であれば、本籍地の記載欄に転籍先の本籍地が書き加えられるため、除籍とはなりません。
※2 磁気ディスクをもって調製された除かれた戸籍を蓄積したものも除籍簿とされています。
上記の除籍についての説明は“戸籍自体が除籍になった”という意味ですが、戸籍に記載されていた者が死亡、婚姻、転籍などによりその戸籍から除かれることも除籍といいます。このように除籍には二つの意味があるので、どちらの意味で使われているのか注意する必要があります。
なお、後者の意味で除籍された者については、磁気ディスクに記録・調製された戸籍にあっては「除籍」を枠で囲って表記しており、紙の戸籍にあっては氏名に大きく×が付されています。
ちなみに、戦後の戸籍法のもとでは、筆頭者が死亡しても他の者が戸籍に残っていればその筆頭者が後者の意味で除籍になるだけで戸籍自体が除籍になることはありません。その戸籍の筆頭者名も変わりません。(本籍地や筆頭者名については、戸籍のインデックスのようなものと考えればわかりやすいでしょう。)
ところが、戦前の戸籍法では、戸主の死亡や隠居によって新しい戸主による新しい戸籍を編製したことから、死亡・隠居した者が戸主であった戸籍は、前者の意味で戸籍自体が除籍になっていました。
○改製原戸籍 (原戸籍)
戸籍の様式が改められ書き換えることを戸籍の改製といいますが、この改製が行われる前の元の戸籍のことです。略して「原戸籍(はらこせき)」とも言います。「げんこせき」とは発音しません。戸籍の窓口で「げんこせき」と言ってしまうと「現戸籍」=戸籍と捉えられてしまうので注意を要します。
改製はこれまで何度か行われていますが、ここでは目にすることが多い戦後に行われた2度の改製に伴う2種類の改製原戸籍について簡単に説明します。
◆昭和改製原戸籍
昭和22年の民法の改正に伴って翌23年に戸籍の様式が改められ、改製作業は、昭和33年4月1日から約10年を費やして実施されました。この改製が行われる前の元の戸籍のことを昭和改製原戸籍といいます。
昭和改製原戸籍は、様式としては大正4年式戸籍であり、旧民法の家制度に基づいて戸主を中心とする家単位の戸籍となっています。
なお、改製は次のように2段階で行われました。
第1次改製(強制) 昭和36年3月末までに次の1,2,3により実施
第2次改製(任意) 第1次改正後速やかに実施
第1次改製において①②によって簡易改製した旧法戸籍の用紙を用いている戸籍について、新法様式の戸籍用紙を用いて編製替えをしました。
◆平成改製原戸籍
平成6年法律第67号「戸籍法及び住民基本台帳法の一部を改正する法律」による戸籍のコンピュータ化による改製が行われる前の元の戸籍のことをいいます。この改製作業はほぼ終了しており、令和元年12月末現在で改製が行われていないのは東京都御蔵島村のみです。
平成改製原戸籍は、様式としては昭和23年式戸籍であり、昭和22年の民法の改正による家制度の廃止により夫婦及びこれと氏を同じくする子を単位に編成された戸籍です。
○明治5年式戸籍 (壬申戸籍) 戸籍法(明治4.4.4太政官布告170 明治5.2.1施行)
戸(戸主と家族により構成された世帯)を単位に戸籍を編製したもので、住所登録と身分登録の機能を併せ持っており、戸の総人員の氏名、年齢、族称(華族、氏族、平民など)、戸主との続柄・婚姻・養子縁組などの身分関係、更には地域によっては職業、菩提寺、氏神、戸主の印鑑などが記載されていたといいます。
様式については、必ずしも画一的ではなく、地域ごとに違う様式で編製されたとも言われています。
明治4年には穢多非人等の身分は廃止され平民とされたにもかかわらず、一部地域では新平民などと記載されており、身辺調査の手段として利用されようとした事件が発生したことを受けて、昭和43年の法務省民事局長通達により閲覧禁止とされ、それ以降は見ることはできなくなりました。
○明治19年式戸籍 戸籍取扱手続(明治19.10.16内務省令22)
戸籍の編製単位を戸(戸主と家族により構成された世帯)とし、戸籍の見出し部分に住所と前戸主の身分(族称)と氏名が記載されました。
このときに除籍簿の制度が設けられ、全員除籍になった場合や相続があった場合には、その戸籍は除籍簿に綴じられました。
○明治31年式戸籍 戸籍法(明治31年法律12)
○大正4年式戸籍 戸籍法(大正3年法律26)
「戸主となりたる原因及び年月日」欄が廃止されました。その代わりに戸主の「事項欄」に記載されるようになりましたが、新しい戸籍が編製される際には、従前の戸籍に記載のあった事項はすべて移記する取り扱いだったというところに大正4年式戸籍の大きな特徴がありました。
そのために、戸籍の編製日を間違ってしまうことで、戸籍取得に抜けが生じやすく、相続における戸籍取得において注意を要するものとなっています。
○昭和23年式戸籍 戸籍法(昭和22年法律第224)
民法の親族編及び相続編の全面改正(昭和22年法律222号)により家制度が廃止されたことに伴って、一の夫婦と同氏の子を基本単位として編成されました。
平成の中・後期まで多く使われていた、タイプライターなどで記載されたものです。
○平成6年式戸籍
戸籍法及び住民基本台帳法の一部を改正する法律(平成6年法律第67号)の施行(平成6年12月1日)に伴い、戸籍法第118条から120条が新設され、法務大臣の指定する市区町村長は、法務省令の定めるところにより、戸籍事務の全部または一部を電子情報処理組織によって取り扱うことができるようになったものです。
令和元年12月末日現在では、東京都御蔵島村を除くすべての市区町村がこの様式により戸籍を編製しています。
○戸籍(除籍・改製原戸籍)の謄本(全部事項証明書)
戸籍(除籍・改製原戸籍)の原本の内容の全て(その戸籍に入っている全員分)を写したもので、戸籍(除籍・改製原戸籍)の原本と相違ないことを証明するものです。
コンピュータ化された戸籍(平成6年式戸籍)については、原本や写しという概念がありませんので、「謄本」という言い方をせずに、戸籍に記録されている事項の全部を証明するものということで「全部事項証明書」と呼んでいます。証明する内容については謄本と変わりはなく、市区町村の窓口でも「謄本」で十分通用します。
相続手続においては、一般的には、この謄本(全部事項証明書)を使用します。
○戸籍(除籍・改製原戸籍)の抄本(個人事項証明書)
戸籍(除籍・改製原戸籍)の原本の内容の一部(その戸籍に入っている一個人分)を写したもので、戸籍(除籍・改製原戸籍)の原本と相違ないことを証明するものです。
コンピュータ化された戸籍(平成6年式戸籍)については、原本や写しという概念がありませんので、「抄本」という言い方をせずに、戸籍に記録されている者のうち、一部の者について記録されている事項の全部を証明するものということで「個人事項証明書」と呼んでいます。証明する内容については抄本と変わりはなく、市区町村の窓口でも「抄本」で十分通用します。
なお、戸籍(除籍・改製原戸籍)の抄本(個人事項証明書)を請求する場合には、その性格上、誰のものが欲しいのかを指定して行う必要があります。
○戸籍(除籍・改製原戸籍)の記載事項証明書(一部事項証明書)
戸籍(除籍・改製原戸籍)の原本の内容のうち、証明を求められた事項について、戸籍に記載があることを証明するものです。
コンピュータ化された戸籍(平成6年式戸籍)については、「記載」という概念がありませんので、「記載事項証明書」という言い方をせずに、請求者の証明を求める事項中、証明を求められた事項を証明するものということで「一部事項証明書」と呼んでいます。証明する内容については記載事項証明書と変わりはなく、市区町村の窓口では記載事項証明書でも一部事項証明書でも通用しますが、個人的には一部事項証明書という言い方のほうが証明する内容を表しているような気がします。