相続関係説明図とは、死亡した方(被相続人)とその全ての相続人に関して相続についての関係を図式化した家系図のようなものです。
相続関係説明図は、法令で規定されているものではなく、その記載内容・方法等に特に決まりというものはありません。
とはいっても、「相続関係説明図」という名称(表現)は、次の「不動産登記実務における相続関係説明図」で説明するように、不動産登記の実務において戸籍謄・抄本及び除籍謄本の原本還付の場面で広く使われ浸透しているものです。
そして、「相続関係説明図」というときには、この不動産登記の実務場面において使用できるものという含意があることが一般的であるように思われます。
▷不動産登記実務における相続関係説明図
不動産登記申請書の添付書面の原本の還付請求については不動産登記規則第55条に規定されていますが、そこには、原本と相違ない旨を記載した謄本を添付して申請書の添付書面の原本の還付を請求することができるとされています。
そして、「不動産登記法の施行に伴う登記事務の取扱いについて(法務省民二第457号 平成17年2月25日 法務省民事局長通達)」の第1.7において、「いわゆる相続関係説明図」という表現で「相続関係説明図」という言葉が使われています。
その内容は、「相続による権利の移転の登記等における添付書面の原本の還付を請求する場合において、いわゆる相続関係説明図が提出されたときは、登記原因証明情報のうち、戸籍謄本又は抄本及び除籍謄本に限り、当該相続関係説明図をこれらの書面の謄本として取り扱って差し支えない。」というものです。
これは、原本還付における例外的な運用を定めているもので、戸籍謄・抄本及び除籍謄本を申請書の添付書面として提出した場合は、戸籍謄・抄本及び除籍謄本のコピー(「原本と相違ない」旨を記載し署名押印したもの)を添付しなくても、相続関係説明図を提出すれば、「原本と相違ない」旨を記載し署名押印したコピーが提出されたものとして取り扱い、原本(戸籍謄本・抄本及び除籍謄本)の還付をしてもよいということです。
「差し支えない」との表現ですので、相続関係説明図の提出で原本(戸籍謄本・抄本及び除籍謄本)を還付「する」「しない」は法務局の裁量に委ねられることになりますが、実際の運用では、事実上、相続関係説明図が提出されれば原本(戸籍謄本・抄本及び除籍謄本)を還付する取り扱いになっているようです。
このようなことから、これから述べる「記載内容」等においては、不動産の相続登記における戸籍謄本等の原本還付請求の際に使用できるものとして、登記申請の際の提出書類として例示されているものに基づいて、相続関係説明図を説明しています。
ところが、現実には、不動産の相続登記の場合だけではなく、相続に伴う金融資産や動産の名義変更など様々な場面で相続関係説明図は使われていますので、相続関係説明図を作成するときには、実際に使用する目的・場面を踏まえたうえで記載内容等を決めることになります。
なお、平成29年5月より始まった法定相続情報証明制度における法定相続情報一覧図についても相続関係説明図の一種といえますが、記載内容・方法が若干異なります。
≫法定相続情報証明制度
記載する内容に特に決まりはありませんが、次のような内容を記載していることが多いようです。
◇標題
誰に関する相続関係説明図であるのかがわかるような標題を記載します。
「被相続人 ○○○○ 相続関係説明図」とするのが一般的のようです。法務省が示す相続関係説明図例(「記載方法」を参照)でも、そのようなものになっています。(法務省ウェブサイトの「不動産登記の申請書様式について」に登記申請書の記載例や必要な添付書類などが掲載されており、その中で相続関係説明図の例も示されています。)
◇被相続人に関する情報
死亡した方(被相続人)の「氏名」、「出生日」、「死亡日」、「最後の本籍」及び「最後の住所」を記載します。氏名の上に「(被相続人)」と記載するなど被相続人であることを明示します。
ちなみに、法務省が示す相続関係説明図例では、被相続人の「氏名」、「死亡日」及び「最後の住所」並びに被相続人である旨が記載されたものになっていますが、相続関係説明図は戸籍謄本等の原本還付を受けるためのものであることに鑑みて、私は、例で示されている項目のほかに「出生日」及び「最後の本籍」といった戸籍情報も盛り込むこととしています。
「最後の住所」については、登記手続きにおいて必要な情報であることはもちろん、他の相続手続においても一般的に必要となる情報ですから、私も、利便性の観点から原則として記載するようにしています。ただし、複雑な相続関係説明図で住所まで記載すると非常に見づらくなってしまうような場合などは、使用の目的や場面なども考慮した上で、住所に関する情報は盛り込まないこともあります。
なお、登記手続きにおいて相続関係説明図に「最後の住所」など戸籍情報以外の情報を盛り込んだとしても、相続関係説明図を提出することで(最後の住所などの情報を証明するものとして提出した)住民票の除票や戸籍の附票などまでその原本が還付されるというわけではありません。住民票の除票や戸籍の附票などの原本還付を受けるためには、それらのコピー(「原本と相違ない」旨を記載し署名押印したもの)を添付しなければなりません。相続関係説明図で原本還付されるのは、あくまでも戸籍謄・抄本及び除籍謄本だけということです。
◇法定相続人に関する情報
法定相続人の「氏名」、「死亡した方との続柄」、「出生日」、「本籍」及び「住所」を記載します。
また、代襲相続や数次相続が発生している場合には、更に被代襲者等の「死亡日」を記載します。本籍及び住所は、最後のものを記載します。
なお、通常は、氏名の上に「(相続人)」と記載するなど相続人であることなどを明示しますが、私は、ワープロで作成する段階ではそれを記載するスペースを確保するだけにしておき、相続関係説明図を提出するときに提出先に応じて手書きで記入するようにしています。それは、次のような理由からです。
法務省が示す相続関係説明図例を見ると、相続人である旨の「(相続人)」との記載は登記申請に係る不動産を実際に相続する者であることを意味しており、遺産分割協議の結果として(法定相続人であったとしても)相続財産中の不動産を相続しなかった者については「(分割)」と記載するようになっています。
同一の方法で遺産分割する不動産だけが相続財産であれば、きっちりとワープロで法務省が示す例のように「(相続人)」や「(分割)」と記載した相続関係説明図を作成すればよいでしょう。
しかし、遺産分割協議が行われた場合には、個々の相続財産ごとに当該財産を相続する者がそれぞれ決められることが多いことが実情です。そうなると、一枚の相続関係説明図ではわかりにくくなり、又は表しきれなくなります。そもそも、相続関係説明図を作成している段階では、遺産分割協議が整っていないことも多々あります。
また、金融機関などでは「(分割)」と記載されていても意味が分からないことの方が多いなど、提出先によってどのように記入するかも変わってきますので、提出先の指示に従って記載した方が手続きがスムーズに進むと思います。なお、一番汎用的で無難なのは、実際に相続するかどうかは別にして、法定の相続人に「(法定相続人)」と記載することでしょう。
これが、提出時に「(相続人)」等と記入するようにしている理由です。
ちなみに、法務省が示す相続関係説明図例では、相続人の「氏名」、「出生日」及び「住所」並びに相続人である旨が記載されたものになっていますが、被相続人に関する情報と同様の考えによって、相続関係説明図は戸籍謄本等の原本還付を受けるためのものであることに鑑みて、私は、例で示されている項目のほかに「死亡した方との続柄」や「本籍」といった戸籍情報も盛り込むこととしています。
「住所」については、少なくとも(遺言や遺産分割協議によらない)法定相続の場合にあっては登記手続きにおいて相続人全員について必要な情報ですし、他の相続手続においても一般的に必要となる情報ですからから、その記載、省略については、被相続人の場合と同様です。
また、登記手続きにおいて相続関係説明図に「住所」など戸籍情報以外の情報を盛り込んだとしても、相続関係説明図を提出することで住民票や戸籍の附票などまでもがその原本が還付されるというわけではないことは、被相続人の最後の住所などの情報を証明するものとして提出した住民票の除票や戸籍の附票などと同様です。
◇その他
必ず必要というわけではなく、法務省が示す相続関係説明図例にも記載はありませんが、下部に「作成日」と「作成者」について記載しておくとよいでしょう。
なお、相続関係説明図の一種でもある法定相続情報一覧図については、法務省が示している様式では、「作成日」と「作成者」を記載するようになっています。
また、不動産登記の実務に携わる方のものに多いのですが、「戸籍関係一式は還付した。」や「原本還付」と記載し、(法務局職員が)押印する欄を設けておくことが必要であるとの説明が見受けられます。
不動産の登記申請の際に戸籍謄・抄本及び除籍謄本の還付を受けるためだけに相続関係説明図を用いるということであれば、そのように記載し押印欄を設けることをお勧めします。
しかし、せっかく作った相続関係説明図なので様々な相続手続で使用しようということであれば、このように記載し押印欄を設ける必要はない、というより、しない方がよいと思います。
登記申請を司法書士に依頼するのであれば、司法書士は「原本還付」との記載と押印欄のあるゴム印などを持っていることが多いと思いますので、それを用いて対応してくれるはずです。また、ご自分で登記申請を行う場合には、手書きで「原本還付」と記載して押印欄を設ければ大丈夫です。
相続関係の登記以外の手続きにあっては、提出先によって相続関係説明図の取り扱いはまちまちですので、提出先の指示に従って、何らかの記載が必要とされた場合には手書きで加筆すれば大丈夫だと思います。
用紙の大きさを含めて記載方法について特に決まりはありませんが、登記申請時の添付書類の記載例のひとつとして法務省より次のような相続関係説明図の例が示されています。これらを見るとA4サイズの用紙で作成するのが無難だと思われます。
なお、記載する内容と方法は密接に関係するものです。私が相続関係説明図を作成する場合には、法務省が示す例とは若干異なり、上記の「記載内容」で示したような内容を盛り込んで記載しています。
相続関係説明図を作成するためには、通常、次のような書類を準備することが必要になります。
◇死亡した方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等の一式
死亡した方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等の一式が必要です。
ここで重要なことは、「連続した」ということです。面倒に思えるかもしれませんが、相続人を漏れなく探索するためには、除籍や改製原戸籍を含めて連続して漏れのない全ての戸籍謄本等が必要ななのです。
なお、この場合の「死亡した方」とは一般的には被相続人のことですが、代襲相続や数次相続が発生している場合には、被代襲者等も含みます。
◇死亡した方の最後の住所がわかる(住民票の)除票又は戸籍の附票(の除票)の写し
死亡した方の最後の住所がわかる証明書が必要です。この証明書は、一般的には(住民票の)除票の写しということになろうかと思いますが、最後の住所地と本籍地が異なる場合などには、最後の本籍地の戸籍(除籍)謄本と請求先が同じことから入所に手間がかからないということもあって、戸籍の附票(戸籍の附票の全部が消除されているときには戸籍の附票の除票)の写しを用いることもあります。
なお、この場合にあっても、代襲相続等が発生している場合には、被代襲者等も含みます。
◇相続人のいま現在の戸籍全部(個人)事項証明書(戸籍謄抄本)
各相続人のいま現在の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)または戸籍個人事項証明書(戸籍抄本)が必要です。登記申請には戸籍個人事項証明書(戸籍抄本)があれば大丈夫ですが、同じ手数料で戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)の入手が可能ですので、大は小を兼ねるということで戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)を取得するという方も多いようです。
ちなみに、「戸籍全部事項証明書」や「戸籍個人事項証明書」という表現ですが、コンピュータ化された戸籍(平成6年式戸籍)には原本や写しという概念がありませんので、「謄本」や「抄本」という言い方をせずにこのような言い方をしています。令和2年1月現在でコンピュータ化が未了なのは東京都御蔵島村のみです。
◇相続人のいま現在の住民票又は戸籍の附票の写し
各相続人のいま現在の住所がわかる証明書が必要です。この証明書は、一般的には住民票の写しということになろうかと思いますが、住所地と本籍地が異なる場合などには、戸籍謄抄本と請求先が同じで入所に手間がかからないということもあって、戸籍の附票の写しを用いることもあります。
戸籍収集について詳しくお知りになりたい方は次をご覧ください。
相続関係説明図と親族関係図は、どちらも親族関係を示していますが、一般的には、関係性の中心にいる者が死亡した者か存命中の者かという違いがあります。死亡した者を中心にして作るのが相続関係説明図であり、存命中の者を中心にして作るのが親族関係図でということです。
ただし、この違いは絶対的なものではありません。どちらも法令で規定されているものではありませんので、作者の主観に基づいて作者が最もふさわしいと思うタイトルを付しますので、なかには例えば、死亡した者が関係性の中心になっている「亡○○○○氏 親族関係図」といったものもあり得ます。それは、相続人の範囲を超えて死亡した者の親族関係を図式化したものである場合もあるでしょうし、相続人の範囲にとどまっており実質的には相続関係説明図と違いがないものもあるでしょう。このように現実の場面では両者の違いは曖昧です。
親族関係図について詳しくお知りになりたい方は次をご覧ください。
≫親族関係図
相続関係説明図と法定相続情報一覧図は、どちらも被相続人と相続人との関係を示したもので、その意味で両者は同じようなものです。
大きな違いと言えば、法定相続情報一覧図は(法務局が担当する)法定相続情報証明制度における法定相続情報を記載した書面のことを意味し不動産登記規則第247条に根拠を有するものであるのに対して、相続関係説明図は法令で規定されているものではないということです。
つまり、法定相続情報一覧図は、相続関係説明図の一種であり、その根拠を不動産登記規則に置くものと言うことができます。
法定相続情報一覧図について詳しくお知りになりたい方は次をご覧ください。
≫法定相続情報一覧図