戸籍収集を行うのは、収集した戸籍によって相続人を確定するためです。
したがって、収集する戸籍は、相続人を確定するために必要な範囲ということになります。
それでは、どのようなときに、どのような戸籍の謄本で何を確認するのかについて、代襲相続の発生などで相続人が不明である場合などでも対応できるように、相続人が誰であるかわからない場合にゼロから戸籍謄本を取得するときの一般的と思われる順序に沿って具体的に見ていきます。
多くの場合は相続人が誰かわかっており、連絡も取りあっていることが多いでしょうから、そのようなときは相続人から戸籍謄本を取り寄せるなどで、少しは手間を省いて戸籍集めができると思います。このような点を考慮に入れて、ご自身の状況に合わせてお読みください。
また、ここでは、あくまでも相続人を確定するために必要な戸籍について説明しています。相続放棄において集める戸籍の範囲は、これとは異なりますのでご留意願います。
なお、文中では便宜上「戸籍」と表記していますが、現在戸籍という意味の狭義の「戸籍」だけではなく「除籍」や「改製原戸籍」を含めたものとして用いています。
相続において必要になる戸籍謄本
≫被相続人に関する戸籍 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
≫配偶者に関する戸籍 〔配偶者がいる場合〕場合によって配偶者の現在の戸籍謄本
≫子など直系卑属に関する戸籍 〔子がいる(いた)場合〕
◇子に関する戸籍
全ての子について、存命の者は現在の戸籍謄本、死亡している者は出生から死亡までの全ての戸籍謄本
◇死亡した子の子に関する戸籍 〔死亡した子がいる場合。代襲相続〕
死亡した子の全ての子について、存命の者は現在の戸籍謄本、死亡している者は出生から死亡までの全ての戸籍謄本
※ 再代襲については、代襲の場合と同様の考え方による戸籍謄本
≫父母など直系尊属に関する戸籍 〔子など直系卑属がいない場合〕
◇父母に関する戸籍
・ 父母の双方が存命の場合は、父及び母の現在の戸籍謄本
・ 父母の双方が死亡している場合で、祖父母のいずれかが存命のときは、父及び母について、それぞれ死亡の事実が記載された戸籍
・ 父母の双方が死亡している場合で、全ての祖父母も死亡しているときは、父及び母について、出生から死亡までの全ての戸籍謄本
・ 父母の一方が存命で他方が死亡している場合は、存命の者は現在の戸籍謄本、死亡している者は死亡の事実が記載された戸籍
◇祖父母に関する戸籍 〔父母の双方が死亡している場合〕
・ 全ての祖父母について、存命の者は現在の戸籍謄本、死亡している者は死亡の事実が記載された戸籍
≫兄弟姉妹に関する戸籍〔直系卑属及び直系尊属がともにいない場合〕
◇兄弟姉妹に関する戸籍
全ての兄弟姉妹について、存命の者は現在の戸籍謄本、死亡している者は出生から死亡までの全ての戸籍謄本
◇死亡した兄弟姉妹の子に関する戸籍〔兄弟姉妹が死亡している場合。代襲相続〕
死亡した兄弟姉妹の全ての子について、存命の者は現在の戸籍謄本、死亡している者は出生から死亡までの全ての戸籍謄本
相続が発生したときに必ず必要になるのは、“被相続人に関する戸籍の謄本”です。しかも、被相続人が出生したときに入籍した戸籍謄本から死亡の事実が記載された戸籍謄本までの連続した全ての戸籍謄本が必要です。
なお、不動産登記の実務では、(必ずしも出生時まで遡るのではなく)生殖能力が備わる13歳くらいの戸籍まで遡ればよいとされているようです。
しかし、除籍・改製原戸籍の保存年限の延長(平成22年法務省令22により80年から150年に改められた)や近時の被相続人の一般的な年齢、他の相続手続きでの使用などを考慮すると、出生時の戸籍まで遡ることはさほど難しいことではないことから、特段の事情がない限りは、被相続人が出生したときに入籍した戸籍謄本まで収集するようにしましょう。
それでは、被相続人に関する戸籍の謄本で、何を確認するのかについて具体的に見ていきます。
○被相続人の死亡の事実の確認
相続は、死亡によって開始する(民法第882条)とされており、相続が開始したことを確認するために、(被相続人の)死亡の事実が記載された戸籍謄本が必要となります。
なお、被相続人の死亡の事実が記載された戸籍謄本は、死亡届提出後、審査などがありますので入手まで一定の期間が必要です。特に、本籍地以外の市区町村に死亡届を提出した場合には、その送付に期間を要することから長期化しやすいようです。一般的には、死亡届を提出してから戸籍に死亡の事実が記載されるまで2週間程度は要すると考えておいた方が良いでしょう。
○配偶者の有無の確認
常に相続人となる「配偶者」の有無については、被相続人の死亡の事実が記載された戸籍謄本により確認できます。
離婚したかつての配偶者は、相続人にはなりません。配偶者として相続人になるのは、あくまでも被相続人の死亡時に生存している配偶者です。
○子の有無の確認
第一順位の相続人となる「子」の有無については、被相続人の死亡の事実が記載された戸籍謄本から被相続人が出生したときに入籍した戸籍謄本まで連続して遡って全ての戸籍謄本を収集することで確認できます。
ここで重要なことは、「連続して」というところです。
本籍地や筆頭者・戸主が変わった場合には、その変更の前後どちらの戸籍謄本も必要になります。その際は、戸籍謄本から除籍・入籍の年月日や本籍地、筆頭者・戸主についての記載から前後の戸籍のつながりを確認することになります。
また、戸籍の様式はこれまで何度か変更され、それに伴って(本籍地や筆頭者・戸主に変更がなくとも)新しい様式による戸籍が改めて編製(改製)されてきました。その際には、改製の時点で婚姻や死亡などで除籍になっている人や戸籍事項欄などは新しい様式の戸籍には書き写されないことが通常であることから、改製後の戸籍謄本を見ただけでは改製前の事実は当然にはわからないようになっています。そこで、改製されている場合には、改製後の戸籍の謄本だけではなく、改製前の戸籍(改製原戸籍)の謄本も必要になってきます。
このようなことに留意しながら「連続して」全ての戸籍謄本を収集することになります。
被相続人に配偶者がある場合には、被相続人の死亡の事実が記載された戸籍謄本があれば、それで被相続人が死亡した時点で配偶者が生存していたことが確認できるので、戸籍謄本を取得してから期間が経っていたとしても通常は大丈夫です。
しかし、金融機関での手続きなどでは、発行から3か月以内や6か月以内などと有効期限が示されて新しい戸籍謄本を求められることがあります。また、法務局に提出する場合であっても、法定相続情報証明制度では相続人の「現在の」戸籍謄本又は戸籍抄本の提出が必要とされているなど発行間もない新しい戸籍謄本を求められることもあり得ます。
このようなことから、被相続人の死亡の事実が記載された戸籍謄本を取得してからだいぶ期間を経過している場合には、この戸籍謄本とは別に被相続人の配偶者の新しい戸籍謄本を取得することが必要になることもあると考えておくとよいでしょう。
○子に関する戸籍
被相続人の子については、被相続人の死亡の事実が記載された戸籍謄本から被相続人が出生したときに入籍した戸籍謄本まで遡る連続した全ての戸籍謄本があれば、その有無が確認できます。
そして、その被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本が、被相続人の全ての子について、存命の者にあっては現在の戸籍謄本、死亡している者にあっては出生から死亡までの全ての戸籍謄本にもなっているのであれば、子について他の戸籍謄本を取得する必要はありません。
しかし、婚姻などにより除籍されている子がいる場合には、相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本だけでは、当該除籍された子の生死について不明であり、相続人になるのか否かの確認ができません。
そこで、このようなときには、当該除籍された子について、除籍されてから現在(死亡した場合には死亡の事実が記載された戸籍)までの連続した戸籍謄本を収集することになります。
これまでの戸籍収集で、生存が確認できた被相続人の子は第一順位の相続人となります。被相続人の子のうち被相続人の死亡時以前に死亡した者がいることが判明した場合にあっては、その者に子があるときには、その死亡した子の子について、次により戸籍謄本の収集を進めることになります。
○死亡した子の子に関する戸籍
被相続人の子が相続開始以前に死亡したときは、その者の子(直系卑属に限る)がこれを代襲して相続人となる(民法第887条第2項)とされています。
この代襲相続人については、死亡した子の戸籍から婚姻などで除籍された(死亡した子の)子について、除籍されてから現在(死亡した場合には死亡の事実が記載された戸籍)までの連続した戸籍謄本を収集することで、これまでに取得した戸籍謄本とあわせて、相続人を(その有無を含めて)確定することができます。
ここで生存が確認された(死亡した子の)子が代襲相続人として第一順位の相続人となります。
なお、代襲相続人が死亡している場合の再代襲や再々代襲・・・にあっても、これと同様の考え方に基づいて戸籍謄本を収集し、第一順位の相続人について(その有無を含めて)確認することになります。
○父母に関する戸籍
ここまでで第一順位の相続人がいないことが確認されたならば、次に、第二順位の相続人がいるか否かを確認することになります。
これまでに取得した戸籍謄本の中に父母の双方の死亡の事実が記載されたものがあれば、祖父母の戸籍謄本の収集を進めることになります。
また、これまでに取得した戸籍謄本では父母の死亡の事実が確認できない場合は、その死亡が確認できない者について、収集したその者の戸籍謄本の中で最も新しいものから現在(死亡した場合には死亡の事実が記載された戸籍)までの連続した戸籍謄本を収集することになります。
ここまでの段階で、父母の双方について、死亡の事実が記載された戸籍謄本をそれぞれ取得していれば、祖父母の戸籍謄本の収集を進めることになります。
生存している父又は母がいることが確認できれば、その生存している者が第二順位の相続人となります。
父母の双方の死亡が確認され、全ての祖父母の死亡も確認できた場合は、父母それぞれについて死亡から出生まで遡る連続した戸籍謄本が揃うように不足分の戸籍謄本を収集することになります。
なお、父母の双方が死亡している場合で、全ての祖父母も死亡しているときに、父母それぞれについての出生から死亡までの連続した戸籍謄本の収集を行うのは、異母兄弟姉妹(父が同一)や異父兄弟姉妹(母が同一)も相続人になり得るため、その存否を明らかにするためです。
○祖父母に関する戸籍
父母がともに死亡している事実が確認できたならば、父母の次に第二順位の相続人になり得る祖父母の生死を確認することになります。
これまでに取得した戸籍謄本の中で、全ての祖父母について、死亡の事実が記載された戸籍謄本をそれぞれ取得していれば、改めて戸籍謄本を収集する必要はありません。
これまでに取得した戸籍謄本では祖父母の全てについては死亡の事実が確認できない場合は、その死亡が確認できない者について、収集したその者の戸籍謄本の中で最も新しいものから現在(死亡した場合には死亡の事実が記載された戸籍)までの連続した戸籍謄本を収集することになります。
(父母の双方がともに死亡しているが)祖父又は祖母が生存していることが確認できれば、その生存している者が第二順位の相続人となります。
○兄弟姉妹に関する戸籍
これまでで第一順位及び第二順位の相続人がともにいないことが確認されたならば、次に、第三順位の相続人がいるか否かを確認することになります。
被相続人の兄弟姉妹については、これまで取得した戸籍謄本があれば、その有無が確認できると思います。
そして、これらの戸籍謄本が被相続人の全ての兄弟姉妹について、存命の者にあっては現在の戸籍謄本、死亡している者にあっては出生から死亡までの全ての戸籍謄本にもなっているのであれば、兄弟姉妹について他の戸籍謄本を取得する必要はありません。
しかし、婚姻などにより除籍されている兄弟姉妹がいることが一般的であり、この場合には、これまでに取得した戸籍謄本だけでは、当該除籍された兄弟姉妹の生死について不明であり、相続人になるのか否かの確認ができません。
そこで、このようなときには、当該除籍された兄弟姉妹について、除籍されてから現在(死亡した場合には死亡の事実が記載された戸籍)までの連続した戸籍謄本を収集することになります。
これまでの戸籍収集で、生存が確認された被相続人の兄弟姉妹は第三順位の相続人となります。
そして、被相続人の兄弟姉妹のうち被相続人の死亡時以前に死亡した者がいることが判明した場合には、その者に子がいるときには、その死亡した兄弟姉妹の子について、次により戸籍謄本の収集を進めることになります。
○死亡した兄弟姉妹の子に関する戸籍
民法第887条第2項の規定は、被相続人の兄弟姉妹の場合に準用する(民法第889条第2項)とされていることから、被相続人の兄弟姉妹が相続開始以前に死亡したときは、その者の子(直系卑属に限る)がこれを代襲して相続人となります。
この代襲相続人については、死亡した兄弟姉妹の戸籍から婚姻などで除籍された(死亡した兄弟姉妹の)子について、除籍されてから現在(死亡した場合には死亡の事実が記載された戸籍)までの連続した戸籍謄本を収集することで、これまでに取得した戸籍謄本とあわせて、相続人を(その有無を含めて)確定することができます。
生存が確認された(死亡した兄弟姉妹の)子が代襲相続人として第三順位の相続人となります。
なお、子の場合と異なり、(民法第889条第2項は、同法第887条第3項を準用していないことから)兄弟姉妹の場合は再代襲や再々代襲というものはありません。