代襲相続と数次相続


 代襲相続と数次相続は、似て非なるものです。

 例えば、被相続人の子が死亡しているときの孫への相続については、被相続人と子の死亡した時期によって代襲相続であったり数次相続であったりしますが、どちらであるかで相続人の範囲に差異が生じてきます。

代襲相続と数次相続を間違えてしまうことで、遺産分割協議など相続手続に大きな影響が出てしまう恐れがあります。そこで、代襲相続と数次相続を間違えることがないように、両者の違いを中心に説明します。

 

 なお、ここでは現行の民法に基づいての説明になりますが、相続においては、相続が開始した時点での民法が適用されることが原則となります。

 昭和55年12月31日以前は、今とは相続分が異なるほか第三順位の相続人(兄弟姉妹)の代襲相続の範囲が異なりますので、特に注意してください。

 

  ≫相続開始時と適用される相続制度 はこちら

代襲相続

 代襲相続は、本来であれば相続人となるはずだった者の地位が移転するものです。

 

 具体的には、次のア~カのときにその者の子が代襲して相続人になります。(代襲する者を代襲者、代襲される者を被代襲者といいます。) ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない(民法第887条第2項。同法第889条第2項において準用する場合を含む。)とされています。相続放棄は代襲相続の原因にならないことや、ただし書きと養子の子の関係にご留意願います。

 

   ≫ただし書きと養子の子の関係については こちら

 

ア.被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき(民法第887条第2項)

 

イ.被相続人の子が、民法第891条の規定に該当し相続権を失ったとき(民法第887条第2項)

 

相続人の欠格事由】

民法第891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。

  1. 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
  2. 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
  3. 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
  4. 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
  5. 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

ウ.被相続人の子が、廃除によって相続権を失ったとき(民法第887条第2項)

 

エ.被相続人の兄弟姉妹が、相続の開始以前に死亡したとき(民法第889条第2項)

 

オ.被相続人の兄弟姉妹が、民法第891条の規定に該当し相続権を失ったとき(民法第889条第2項)

 

カ.被相続人の兄弟姉妹が、廃除によって相続権を失ったとき(民法第889条第2項)

 

 なお、ア~ウについては、代襲者(ア~ウでいえば被相続人の子の子)が相続の開始以前に死亡し、又は民法第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する(民法第887条第3項)とされており、これを再代襲といいます。

 このことを被相続人、代襲者の死亡の場合についてわかりやすく説明すると、被相続人の子が被相続人の死亡以前に死亡した場合には被相続人の孫が代襲相続人になり、その孫も被相続人の死亡以前に死亡した場合には被相続人の曾孫(ひまご。孫の子)が再代襲により代襲相続人になります。

 同様に、その曾孫が被相続人の死亡以前に死亡した場合には被相続人の玄孫(やしゃご。孫の孫)が代襲相続人になるということです。

 

 ちなみに、この再代襲は被相続人の兄弟姉妹に関しては適用がないことにご留意願います。

 被相続人の兄弟姉妹が被相続人の死亡以前に死亡した場合には被相続人の甥姪が代襲相続人になりますが、その甥姪が被相続人の死亡以前に死亡したとしても被相続人の姪孫(てっそん。甥姪の子)が相続人になることはありません。もちろん曾姪孫(そうてっそん。甥姪の孫)が相続人になることもありません。

 

 代襲により相続人となる直系卑属の相続分については、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、民法第900条(法定相続分)の規定に従ってその相続分を定める(民法第901条)とされています。

 例えば、被代襲者の相続分が4分の1とした場合に、当該被代襲者に係る代襲相続人が一人のときは代襲相続人の相続分も4分の1で、当該被代襲者に係る代襲相続人が二人のときは代襲相続人の相続分はそれぞれ8分の1(被代襲者の相続分である4分の1 × 代襲相続人間の相続割合2分の1)ということです。

数次相続

 数次相続は、複数の相続が発生している状況のことです。

 具体的には、例えば、Aの死亡による相続が開始し、その相続手続が終了しない間に、Aの相続人となった子Bが死亡して、亡Bを被相続人としてその子Cを相続人とする別の相続が開始しているような状況のことです。(ここでは代襲相続との違いを同じ登場人物で表すため、Aの配偶者XはAよりも前に死亡しているとの前提で、Aの相続人として子Bを例としましたが、Aの配偶者Xが相続人となり、Xが死亡してXを被相続人とする別な相続が開始した場合も同じく数次相続です。)

 

 これに対して代襲相続は、Aについての相続関係を考えるときに、Aの相続人となるはずだった子Bが、Aの死亡による相続の開始以前に死亡(AとBが同時に死亡した場合を含む)して、亡Bの子Cが亡Bを代襲して相続するというものです。

 代襲相続と数次相続を見分けるには、死亡(相続開始)の順序に着目します。Aとその子Bで例えれば、Aより先にBが死亡(同時死亡を含む)していれば代襲相続であり、Aより後にBが死亡していれば数次相続です。

 

 代襲相続と数次相続で最も注意しなければならないことは、代襲相続か数次相続かで遺産分割協議に参加する相続人が異なるということです。

 上記の例で説明すると、代襲相続の場合には、被相続人Aの子亡Bに配偶者がいたとしてもその配偶者は相続人にはならず遺産分割協議に参加することもありません。

 しかし、数次相続の場合には、被相続人Aの子亡Bに(Bの死亡時に)配偶者もいたときにはBの配偶者と子Cが相続人となり遺産分割協議に参加することになります。

 また、相続手続きについても、例えば、代襲相続における相続登記にあっては代襲相続人を含めて相続人へ直接登記することができますが、数次相続にあっては途中に共同相続を含む場合には最終の相続人へ直接登記できないなどの違いがあります。