相続においては、相続が開始した時点での民法の規定が適用されることが原則であり、旧民法施行中に開始した相続については、たとえ、相続登記の手続きの処理が新民法施行後であったとしても、相続人の特定に当たっては旧民法を適用しなければならないのであり、旧民法中に家督相続が開始したときは、新民法施行後であっても、戸籍への家督相続の届をすることができる(昭和22年4月16日付 民甲第317号 民事局長通達)などとされています。
このことは旧民法と新民法との関係だけの話ではなく、新民法下における相続制度の改正に際しても、特段の定めがない限り、相続が開始した時点での民法の規定が適用されるという原則に変わりはありません。
そこで、相続人と相続分や代襲相続の適用などを中心として相続制度の変遷についてその概略を説明します。
≫昭和56年1月1日~平成25年9月4日 に開始した相続 はこちら
≫昭和37年7月1日~昭和55年12月31日 に開始した相続 はこちら
≫昭和23年1月1日~昭和37年6月30日 に開始した相続 はこちら
≫昭和22年5月3日~昭和22年12月31日 に開始した相続 はこちら
〇相続順位・相続人と相続分
◇常に相続人=>配偶者
◇第1順位==>子
◇第2順位==>直系尊属(親等の異なる者の間では近い者が先順位)
◇第3順位==>兄弟姉妹
〇代襲相続の適用
◇配偶者・・・・・・・代襲相続なし
◇第1順位の相続人・・代襲相続は無制限(再代襲あり)
◇第2順位の相続人・・代襲相続なし
◇第3順位の相続人・・代襲相続は被相続人の甥姪まで(再代襲なし)
〇平成25年9月4日までからの変更点
〇相続順位・相続人と相続分
◇常に相続人=>配偶者
◇第1順位==>子
ただし、平成13年7月1日から平成25年9月4日までの間に開始した相続については、(条文上は、非嫡出子の相続分は、嫡出子の2分の1となってはいるが)嫡出子と嫡出でない子の相続分は同等のものとして(運用上は)扱われることとなりました。
なお、この期間中に開始した相続であっても、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とすることを前提として遺産分割協議が終了している場合など確定的なものとなった法律関係については、その効力が否定されることはない(H25.9.4 最高裁判所大法廷決定)とされています。
◇第2順位==>直系尊属(親等の異なる者の間では近い者が先順位)
◇第3順位==>兄弟姉妹
〇代襲相続の適用
◇配偶者・・・・・・・代襲相続なし
◇第1順位の相続人・・代襲相続は無制限(再代襲あり)
◇第2順位の相続人・・代襲相続なし
◇第3順位の相続人・・代襲相続は被相続人の甥姪まで(再代襲なし)
〇昭和55年12月31日までからの変更点
〇相続順位・相続人と相続分
◇常に相続人=>配偶者
◇第1順位==>子
◇第2順位==>直系尊属(親等の異なる者の間では近い者が先順位)
◇第3順位==>兄弟姉妹
〇代襲相続の適用
◇配偶者・・・・・・・代襲相続なし
◇第1順位の相続人・・代襲相続は無制限(再代襲あり)
◇第2順位の相続人・・代襲相続なし
◇第3順位の相続人・・代襲相続は無制限(再代襲あり)
〇昭和37年6月30日までからの変更点
〇相続順位・相続人と相続分
◇常に相続人=>配偶者
◇第1順位==>直系卑属(親等の異なる者の間では近い者が先順位)
◇第2順位==>直系尊属(親等の異なる者の間では近い者が先順位)
◇第3順位==>兄弟姉妹
〇代襲相続の適用
◇配偶者・・・・・・・代襲相続なし
◇第1順位の相続人・・代襲相続は無制限(再代襲あり)
◇第2順位の相続人・・代襲相続なし
◇第3順位の相続人・・代襲相続は無制限(再代襲あり)
〇昭和22年12月31日までからの変更点
【日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(以下「応急措置法」という)】
〇相続順位・相続人と相続分
◇常に相続人=>配偶者
◇第1順位==>直系卑属(親等の異なる者の間では近い者が先順位)
◇第2順位==>直系尊属(親等の異なる者の間では近い者が先順位)
◇第3順位==>兄弟姉妹
〇代襲相続の適用
◇配偶者・・・・・・・代襲相続なし
◇第1順位の相続人・・代襲相続は無制限(再代襲あり)
◇第2順位の相続人・・代襲相続なし
◇第3順位の相続人・・代襲相続なし
〇昭和22年5月2日までからの変更点
【新民法附則第26条第1項】
応急措置法施行の際における戸主が婚姻又は養子縁組によつて他家から入った者である場合には、その家の家附きの継子は、新法施行後に開始する相続に関しては、嫡出である子と同一の権利義務を有する。
〇適用されるための要件
◇応急措置法施行の際における戸主に係る相続であること
応急措置法施行時(昭和22年5月3日午前0時)において家族(戸主以外の者)の場合の相続に関しては適用されません。
◇当該戸主が婚姻又は養子縁組によって他家から入った者であること
「他家から入った者」とは、その家で生まれたものではなく、他の家で生まれた後でその家に入った者のことをいいます。
◇その家の家附きの継子についてのものであること
継子…配偶者の子にして婚姻の当時に配偶者の家にある者又は婚姻中にその家に入った者のことです。「家附きの継子」とはその家で生まれた継子のことです。
◇新法施行後に開始する相続に関するものであること
新法施行(昭和23年1月1日)後の相続に関してのものです。応急措置法施行中に戸主が死亡した場合については、家附きの継子が相続権を有することにはならず、その代わりに、相続人に対して相続財産の一部の分配を請求できます。(新民法附則第26条第2項)
◇当該戸主であった者が、応急措置法施行後に婚姻の取消若しくは離婚又は縁組の取消若しくは離縁によって氏を改めていないこと(新民法附則第26条第3項)
〇効果
新民法施行後に開始される(応急措置法施行の際の戸主に係る)相続に関しては、その家の家附きの継子は、嫡出子と同一の権利義務を有します。つまり、相続人となります。
嫡出子と同一の権利義務を有することとなるのは、あくまでも相続に関することであり、応急措置法施行後であっても親子関係が存続するということではありません。
つまり、新民法施行後は、もはや子でもなく親でもなくなったものの、相続に関しては嫡出子と同じように扱うということです。
これは、家督相続における第1種法定家督相続人となる(前戸主である被相続人の家族である)直系卑属には、戸主の実子や養子だけではなく、継子も含まれるとされていたことが大きいと思われます。(継子の家督相続の順序については、明文化されていなかったが、家附きであるかなどの事情を参酌し、個々の事案に応じて決すべきとされていました。)
旧民法下において家督相続権を持ちうるほどの関係であった家附きの継子について、新民法になったからといって、子としての身分のみならず相続権すら奪ってしまうことは、実子や養子との関係において極めてバランスを欠くものと考えて、相続に関しては嫡出子と同様に扱うようにしたものと推察します。
≫旧民法下(昭和22年5月2日以前)に開始した相続 はこちら