≫相続に関し争いがある(争いになりそうな)とき >>> 弁護士を検討しよう
≫相続登記が依頼の中心となるとき >>> 司法書士を検討しよう
相続の専門家といっても、国家資格者だけでも弁護士、司法書士、税理士、そして行政書士がいます。これらの4士業は、それぞれ相続において対応できることとできないことがあります。
そして、オールマイティーになんでも対応可能な専門家(国家資格者)というものは、基本的には存在しません。それぞれ専門の職域を持っているためです。
このことを「4士業の相続手続における主な対応可能業務」として表にまとめましたので、相続手続を専門家に依頼する場合には、「どのようなときに誰に頼めばよいのか?」なども参考にして決めていただければよいと思います。
なお、4士業であればその士業が対応できる相続手続に精通しているというわけでは必ずしもありません。企業向け業務など相続以外の分野に専門特化している場合などがあるからです。
このように、専門家であっても対応できない業務や得手・不得手の分野がありますが、「相続手続」の看板を最前面に掲げている4士業は、関連する士業等とのネットワーク等を有しており、連携して対応していることが多いと思います。
このようなことから、依頼する専門家の選定に当たっては、この記事などを参考にして候補を事務所所在地や取り扱っている業務内容などで絞り込んでいくのがよいと思います。その際、取扱業務などについての問い合わせに対しては無料で対応してくれると思いますので、事務所に問い合わせをしてみて、その回答内容やそのときの対応で判断するとよいでしょう。また、都道府県単位の士業の団体に相談してみるという方法もあります。
それでは、4士業(弁護士、司法書士、税理士、行政書士)が対応できる相続手続をご覧ください。
弁護士 | 司法書士 | 税理士 | 行政書士 | |
相続人の調査(戸籍集め) | ○ | ○※1 | ○※2 | ○ |
遺言書の検認申立て | ○ | △※3 | ||
相続財産の調査 | ○ | ○ | ○ | ○ |
相続放棄、限定承認の申述 | ○ | △※3 | ||
遺産分割協議書の作成 | ○ | △※4 | △※5 | ○ |
遺産分割調停の申立て | ○ | △※3 | ||
相続税の申告 | ○ | |||
不動産の相続登記 | ○ | |||
自動車の名義変更 | ○ |
※1 登記手続きに伴うことが必要。
ただし、法定相続情報一覧図の保管の申出を代理人として行う場合は、登記手続きを伴わなくても可能。
※2 税務申告に伴うことが必要。
ただし、法定相続情報一覧図の保管の申出を代理人として行う場合は、税務申告を伴わなくても可能。
※3 書類の作成のみ。(代理人としては手続きできない)
※4 登記手続きに伴うことが必要。
※5 税務申告に伴うことが必要。
〇相続に関し争いがある(争いになりそうな)とき >>>弁護士を検討しよう
遺産分割や遺言書の真偽などで争いがあるときや、まだ争いまでには至っていないが争いになるのは時間の問題というようなときは、迷わずに弁護士を選ぶべきでしょう。弁護士以外の者は、このような争いに報酬を得て介入することは禁じられています。このようなときは、他の士業は手を引かざるを得ません。
また、当事者による遺産分割協議が整わない場合には遺産分割の調停や審判も視野に入れなければならなくなります。申立書など裁判所への提出書類は司法書士も作成することはできるものの、司法書士には代理権がありませんので、代理人にこれらの手続きを進めてほしいというときには弁護士に依頼するほかありません。
ちなみに、相続放棄や限定承認の申述、遺言書の検認申立てのほか、相続人が所在不明の際に必要となる不在者財産管理人選任や失踪宣告の申立てなども裁判所での手続きとなります。これらについても代理人になることができるのは弁護士だけですが、提出書類の作成は司法書士でも可能です。これらの手続が発生することがあらかじめわかっているならば、依頼する士業を検討する際には弁護士や司法書士を選択肢として入れておいたほうが良いでしょう。
なお、これらの裁判所での手続きについては、裁判所のホームページで手続きの仕方や書類の書式・記載例などがわかりやすく示されていますので、ご自身で行うことは十分に可能ですし、実際に自ら行う方が多数います。裁判所のホームページで手続きの概要等をご覧いただき、自らがこれら裁判所の手続きを行うということも視野に入れたうえで、他仕業に依頼した場合のご自身にとってのメリット・デメリットを総合的に検討したうえで、依頼する士業を決めるのがよいと思います。
争いがあれば弁護士への依頼を検討することについては前述のとおりですが、一般論ではあるものの、弁護士の費用は結構な高額になります。その高度な専門性、裁判所に出向くのに便利な事務所立地、スタッフ数などからして致し方ないところだと思います。
また、すべての弁護士が相続手続全般を取り扱っているわけでなく、細々した手続きは行わないというところの方が多いかもしれませんので、これらのことも考慮に入れて検討するとよいでしょう。
〇相続登記が依頼の中心になるとき >>>司法書士を検討しよう
相続財産のほとんどが不動産であるなど、不動産の相続登記が相続手続の中心になるようなときは、司法書士への依頼を選択肢に入れて検討するとよいでしょう。
ただし、相続手続の煩雑さといったものは、一般的には、金銭的価値の多寡というよりは、必要となる相続手続の件数や難易度によりますので、相続手続の中心となる業務が何であるかを判断する場合には、ただ単に相続財産に占める不動産の評価額の割合だけで判断するのではなく、総合的に判断することが必要です。
ところで、弁護士も登記業務ができると考えられており、そのような判例も存在しますが、私の知っている限りでは、登記業務を積極的に受任すると公言している弁護士はいません。知り合いの司法書士を紹介するなどの対応をしている弁護士が多いのではないかと思います。相続登記だけを依頼するときは、事実上、司法書士の一択です。
ちなみに、司法書士が相続登記の申請を行う場合には、当該司法書士は遺産分割協議書についても、登記申請の添付書類として作成することができます。ただし、登記申請の添付書類として作成するという性格上、この書類の作成のみを単独で依頼することはできず、この書類の作成を含めた一体のものとして相続登記の手続きを依頼することになります。したがって、相続財産に不動産が含まれず預貯金や動産などだけという場合は、遺産分割協議書の作成を司法書士に依頼することはできません。
登記申請の添付書類として作成する遺産分割協議書については、当該相続登記に係る不動産が必ず含まれていなければなりませんが、これらの不動産が含まれていれば預貯金や動産などその他の相続財産を含んでいても構いません。
また、相続関係説明図(←戸籍集めによる相続人調査・確定)の作成についても遺産分割協議書の作成とほぼ同様の取り扱いですが、法定相続情報証明制度により法定相続情報一覧図の保管の申出を司法書士が代理人として行う場合には、登記手続を伴わない場合でも法定相続情報一覧図として作成することができます。この場合には相続財産に不動産が含まれないときも作成できます。
なお、すべての司法書士が登記手続以外の相続手続をも取り扱っているわけではありません。また、司法書士以外の専門家であっても「相続手続」を看板の最前面に掲げている場合は、司法書士とのネットワーク等を有しており、連携して対応していることが多いと思います。
このようなことから、相続手続全般について依頼しようとする場合には、相続財産に不動産が含まれるからといって必ずしも司法書士に依頼しなければ対応できないということではありませんので、他仕業に依頼した場合のご自身にとってのメリット・デメリットを総合的に検討したうえで、依頼する士業を決めるのがよいと思います。
蛇足ながら、古い建物を解体して新しい建物を建てたにもかかわらず、登記簿には古い建物が記載されたままで新しい建物が登記されていないことなどが農村部などではたまに見受けられます。このような不動産の相続においては、登記簿の表題部の登記手続きも必要になり土地家屋調査士に依頼することが必要になりますが、司法書士と土地家屋調査士は連携して対応していることがほとんどですので、あまり気にすることはないと思います。
〇税務申告や節税方法の相談等が依頼の中心になるとき >>>税理士を検討しよう
相続財産が高額で複雑であるなど、税務申告を専門家に依頼しないと対応が難しいという場合や、節税方法を具体的に相談したいというときなどは、税務問題の専門家である税理士への依頼を選択肢に入れて検討するとよいでしょう。
ちなみに、税理士が税務申告を行う場合には、当該税理士は遺産分割協議書についても、税務申告の添付書類として作成することができます。ただし、税務申告の添付書類として作成するという性格上、この書類の作成のみを単独で依頼することはできず、この書類の作成を含めた一体のものとして税務申告の手続きを依頼することになります。
また、相続関係説明図(←戸籍集めによる相続人調査・確定)の作成についても遺産分割協議書の作成とほぼ同様の取り扱いですが、法定相続情報証明制度により法定相続情報一覧図の保管の申出を税理士が代理人として行う場合には、登記手続を伴わない場合でも法定相続情報一覧図として作成することができます。この場合には相続財産に不動産が含まれないときも作成できます。
なお、すべての税理士が相続手続全般を取り扱っているわけではありません。というよりは、企業を主要顧客としている税理士のほうが多く、相続手続全般を取り扱っている税理士はごく少数派です。一方、税理士以外の専門家であっても「相続手続」を看板の最前面に掲げている場合は、税理士とのネットワーク等を有しており、連携して対応していることが多いと思います。
このようなことから、相続手続全般について依頼しようとする場合には、税務関係についてはスポットで税理士に依頼することも選択肢に入れて、他仕業に依頼した場合のご自身にとってのメリット・デメリットを総合的に検討したうえで、依頼する士業を決めるのがよいと思います。
〇相続手続についてまだ明確な方針がないようなとき >>>行政書士を検討しよう
どのように相続手続を進めていくのか、どの分野の専門家に依頼するのかということについてまだ明確な方針を決めかねている場合は、権利義務・事実証明書類作成の専門家である行政書士への依頼を検討してみてはどうでしょうか。
司法書士や税理士も遺産分割協議書の作成を行うことができますが、それぞれ登記申請や税務申告と一体として依頼しなければなりません。一方、行政書士の場合は、遺産分割協議書は権利義務・事実証明書類であることから、その書類作成の専門家として、他の業務と一体としてではなく、その作成業務だけを単独・スポットでも行うことができます。
更に、相続では、そのほとんどの手続において相続人を確定することができる戸籍謄本等の束またはそれに代わる法定相続情報証明制度による法定相続情報一覧図の写しの提出を求められます。この法定相続情報一覧図(相続関係説明図)は権利義務・事実証明書類であり、その書類作成の専門家である行政書士の場合は、司法書士や税理士と異なり、代理人として申出をしないときでも、その作成業務だけを単独・スポットでも行うことができます。もちろん、行政書士が代理人として申出することもできます。
法定相続情報一覧図は、法定相続情報証明制度における相続関係説明図のことであり、法定相続情報一覧図の写しとは、この制度により法務局で確認・保管されている法定相続情報一覧図の写しということです。
また、行政書士は、官公署提出書類作成の専門家でもあります。相続に伴う自動車の名義変更など官公署での手続きについては、裁判所提出書類や登記申請、税務申告、労働・社会保険関係の書類など一部例外を除いて行政書士に依頼することになります。
このように、行政書士の場合は、相続関係説明図(←戸籍集めによる相続人調査・確定)など相続開始の初期段階のものから対応可能であり、しかも、相続財産目録(←相続財産の調査)や遺産分割協議書の作成なども含めて、それぞれを単独・スポットで行うことができるなど、自由度が広いものとなっています。
また、“あなたの街の法律家”を標榜している行政書士は、他の士業との比較でいえば、大きな街だけではなく身近な町にもいると思いますので、相談する際の敷居もさほど高くはないでしょう。
なお、許認可申請などに特化した行政書士も多く、すべての行政書士が相続手続を取り扱っているわけではありません。また、行政書士以外の専門家であっても「相続手続」を看板の最前面に掲げている場合は、関係士業とのネットワーク等を有しており、連携して対応していることが多いと思います。
このようなことから、他仕業に依頼した場合のご自身にとってのメリット・デメリットを総合的に検討したうえで、依頼する士業を決めるのがよいと思います。